リーマンショックで財政破たんしたアイスランドの通貨クローナが、対ユーロではそれ以前の水準に回復しています。未曽有の混乱からわずか数年で自国経済を立て直すことができたのは、通貨安を輸出に生かしたからだけではありません。国民が自ら立ち上がってぬるま湯体質から脱却したことも見逃せない要因です。金融危機後のクローナの値動きは、同国がどん底からはい上がっていく過程をそのまま反映しているように見えます。<br/><br/><br/>アイスランドはもともと軍隊を保有しない国の1つで、米国の対ソ連の重要な軍事拠点となっていました。今からちょうど30年前の1986年10月に米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ大統領が首都レイキャビクで開いた首脳会談は象徴的です。その後1989年12月のマルタ会談での米ソ冷戦終結宣言を踏まえ米軍は2006年にアイスランドから完全撤退しました。その2年後、米国の保護下にあった国が米国の金融問題で破たんに追い込まれたのは皮肉ではないでしょうか。<br/><br/><br/>2008年9月のリーマンショックをきっかけに、海外の投資家がアイスランドから一斉に資金を引き揚げたことで流動性危機が発生。ユーロ・クローナは130クローナ付近から10月6日の非常事態宣言にかけて195クローナまで上昇(クローナは下落)します。約3週間で50%減価しました。政府は金融機関の国有化や国際通貨基金(IMF)の支援取り付けなどで対応したものの、140-190クローナの乱高下がその後も続きます。大底を打ったのが国際社会から支援を受け始めた2009年11月。一方で、このころからクローナ安による輸出の押し上げで、早くも経済が再生に向かい始めました。<br/><br/><br/>国家の再建はむしろそれから後の方が重要でした。政府は2010年1月、英国やオランダなどの大口預金者の損失について公的資金、つまりアイスランド国民の税金による救済を決定。これは大統領の拒否権発動や国民の強い反発を招き、2010年3月の国民投票では圧倒的な票差で否決されます。しかし、政府は英国やオランダに支払いを求められ、2011年2月に公的資金の投入を再び決めたものの、国民はまたも反発し国民投票で否決します。<br/><br/><br/>金融危機に際しては主要な金融機関は税金で救済され、負債は納税者が負うケースが一般的ですが、アイスランドの場合は危機を主導した金融機関関係者などに責任を負わせた点が画期的でした。結果的に他国への負債は踏み倒したものの、政治や行政、金融機関、メディアといったエスタブリッシュメント層が無実の納税者に責任を負わせる愚かしい社会システムに異議を唱え、市民運動でそれを覆してみせました。この過程を題材としたドキュメンタリー映画「鍋とフライパン革命」を見れば、人口33万人の小国だからこその離れ業ではないことが理解できます。<br/><br/><br/>アイスランドの経済成長率は2009年に-4%台まで落ち込んだものの、その後はプラスに転じ今年は+4%と見込まれています。一時195クローナまで下落した通貨は120クローナ台まで値を戻したほか、対ドルでは米利上げの方針にもかかわらず強含んでいます。10月29日に実施された総選挙の結果を受け、国民が自らの意思で国家をどのように動かしていくのか、注目したいと思います。<br/><br/>(吉池 威)<br/><br/>

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